口腔外科症例の解説

口腔外科について


口腔外科(こうくうげか)とは?

口腔外科は、歯科医学において主に“医”の部分すなわち“生体内”を取り扱う診療科です。口の中に炎症や外傷があり、歯や顎の痛みのために食事や睡眠が取れなくなった場合、その問題の解決には医学的治療が必要となります。

口腔外科において、基本的な考え方や治療法は一般医科と同じです。
ただし、その治療には歯科学的特性の考慮や特殊技術が必要となります。治療法は外科的療法が中心となることが多く、入院が必要となる場合もあります。
また、心疾患・糖尿病・脳血管障害などの全身的な病気を有する、リスクの高い患者さんの歯科的治療も広範な医学的知識や経験が必要とされますので、口腔外科で行われます。
口腔外科専門医の養成には医学を中心とする専門教育が必要となりますので、大学卒業後、数年から10年程度の期間を要します。口腔外科専門医数は全歯科医師数の2%弱です(認定医は専門医の中には含まれません)。
 
口腔外科が扱う領域や疾患は?
口腔外科の診療対象となる領域は、原則として口唇、頬粘膜、上下歯槽骨、硬口蓋、軟口蓋、舌の前方3分の2、口腔底、顎骨、顎関節、唾液腺などです。
病気や処置としては、親知らずの抜歯手術や難抜歯、インプラント埋入、顎関節疾患(顎関節症、顎関節脱臼等)、粘膜疾患、嚢胞、良性腫瘍、悪性腫瘍、炎症性疾患、外傷(歯の破折や顎骨骨折等)、唾液腺疾患(耳下腺を除く)などを扱います。これらの疾患の詳細については、以下の各項目を参照してください。 診療範囲が多岐に渡るため、近年では、口腔外科と口腔内科に分類されることもあります。

難抜歯(普通歯)・超難抜歯(親知らず)


[1]難抜歯(普通歯の場合)

抜歯は“硬い歯”を“硬い顎骨”から取り除く作業ですので、動揺している歯以外は、元々が難しい処置です。木の根を土の中から抜いた経験のある方であればご想像いただけると思います。木でも歯でも、根が長かったり、太かったり、曲がったり、数が多かったりする場合には、さらに難しくなります(難抜歯)。歯では、“歯と骨が癒着”していることもあり、この場合は著しく難しくなります。難抜歯では、抜歯に1~2時間かかることもあり、患者さんの負担も大きくなってしまいます。

歯科医がX線検査を行い最初から難抜歯が予想される場合には、口腔外科専門医がいる施設に紹介されます。ただまれに、X線検査では難しいと予想されなかったにもかかわらず、実際に行ったところ非常に難しい場合もあります。歯科医は自分の名誉にかけて奮闘しベストを尽くしますが、それでも抜けずやむなく抜歯中止となることがあります。厚労省の歯科点数表の中には“抜歯中止はありうること”としてその項目があります。

一般の方は「歯なんて簡単に抜ける」、「歯科医ならば歯が抜けて当然」と思っている方が大部分と思われますが、けっしてそのようなものではなく、抜歯は元々難しくリスクを伴う処置であること、その中には著しく難しい歯があることを御理解ください。難抜歯だった患者さんからは、「あの歯科医院で酷い目にあった」と言われがちですが、原因は難しい歯にあり、担当した歯科医も大変な苦労をしています。

抜歯中止となった場合は、大学病院等の口腔外科に紹介されます。

以下に難抜歯の例を示しますが、これらはX線検査で認知される明らかな難症例です。患者さんよりもむしろ歯科医に共感していただけることでしょう。

【歯根が弯曲した歯】

弯曲根(1)
コンクリートの中に埋まった“直角に折れ曲がった太い釘”を取り出すことに似ています。屈曲部で折れて抜けることが多く、残存した先端部を摘出するのには高度の技を要します。きれいにすべて抜歯されるのが理想ですが、深追いすることで“神経麻痺”などの合併症が生じ、デメリットが大きくなる場合にはそのまま残存させる場合もあります。残存した根尖が問題を起こすことはまれですが、問題が生じた場合には手術で摘出することになります。
左図:屈曲部で折れて抜歯された歯

弯曲根(2)
2根とも太くかつ弯曲し、交叉している
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【歯根が肥大した歯】
肥大根(1)
根の先端が肥大した歯は、コンクリートの中に“頭を逆さにして埋まった太い釘”を取り出すのに似ています。頭の部分がひっかかり抜けません。左図のように歯根全体が肥大している場合はさらに難しくなります。
肥大根(2)
肥大根(3)
根に歯の腫瘍が付着
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【歯根が骨を抱えた歯】
2根が内側に屈曲しループを形成し、その間に骨を抱えこんでいます(赤い部分)。抱えこまれた骨が両脇で“骨折”し周囲の骨から分離されない限り抜けません。
【歯根が開脚した歯】
開脚した歯根が周囲の骨に引っ掛かり抜けません。
【逆性埋伏歯】
骨内に上下反対向きに埋伏した歯は、歯冠(歯の頭の部分)が歯頚部(歯の首の部分)より大きいため取り出しが困難です。
左図:骨内に上下反対向きに埋伏した過剰歯

【残根】
残根は、歯冠が喪失し歯根だけになった状態ですが、抜歯器具をかけるところがないため、とくに動揺のない残根は、一般に難抜歯となります(厚労省は認めておりませんが・・・)。
残根は歯が崩壊し腐った状態ですのでむろん“細菌感染”を伴っており、高齢者では“誤嚥性肺炎”の原因になります。
腐った歯はきちんと抜歯して細菌感染を無くしておかなければなりませんが、残根は抜くのが難しいのに加え、高齢者では持病を有する方や認知症の方が多いためなお困難となります。さらに、在宅や施設入所の条件下では、器材の制限等もありそのままの状態で放置されがちです。

某開業歯科医の言葉
「一般歯科開業医としては、口腔内の症状(痛み)がなければ仕方がないか・・・。とか、残根の上に義歯を装着して、あとはきれいに磨いてくださいね・・・??? とかになってしまう。 (出展:“残根!”、某大学同窓会誌 昭56卒 原氏より)」
「“抜かない先生=いい先生”ではない(同 原氏)」
「持病をかかえた要介護状態の患者さんの多数歯残根抜歯が一般開業医に可能か・・・悩ましい問題である(同 原氏)」
「全身管理のできる環境で抜歯可能な病院はそう多くはない。医師会・行政を巻き込んでいかないと解決不可能な課題である(同 原氏)」

腐ったリンゴは表面をいくら丁寧に磨いても無意味なのと同じように、残根は表面を歯磨きしても細菌感染を無くすことはできません。腐ったリンゴは処分しないと、箱に入ったものでは、周りのリンゴも全部腐ってしまいます。同様に残根はきちんと抜歯しておかないと、細菌感染は顎骨にまで広がってしまいます。

“口腔ケア”は、腐った歯(リンゴ)の表面を磨くことではありません。その第一は腐った歯(リンゴ)を抜歯する(取り分ける)ことです。

残根抜歯も依頼があれば口腔外科医が行いますが、患者さんの立場からしますと、「普通と思われる歯を抜くためにどうして遠くの大きな病院を紹介されるのか」と疑問に思われるかもしれません。残根も難抜歯であるということをご理解ください。

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[2]超難抜歯(親知らずの場合)

【親知らずとは?】

親知らずは、“第3大臼歯”で“智歯”とも呼ばれ、20歳前後に最後に萌出してくる歯です。萌出と記しましたが、実際には萌えるスペースがなく、大部分は顎骨の中に埋伏したり一部のみ萌出したりします。

親知らずは、原始人の頃には正常に萌出して使えていたのですが、現代人は火を使い軟らかいものしか食べなくなったため顎が小さくなり、最後に萌出する親知らずの萌えるスペースがなくなりました。現代人では、上下左右計4本ある親知らずのうち、30%の人がすでに歯の芽が1本以上先天的に欠如しています。

現代人において歯列とみなされるのは、通常、親知らずの1本手前の第2大臼歯までで、親知らずは一般に機能しない不要な歯となっています。機能しなくても静かにしていてくれればいいのですが、親知らずは存在するだけで細菌感染等のトラブルを引き起こすことが多いため、根本的な治療として抜歯が必要となります。

親知らずを抜く上でのリスクや合併症について

【神経麻痺】
下顎骨の中央にはトンネルが存在し、その中に太いケーブルすなわち神経が入っています。下顎の親知らずの抜歯のリスクとして最も重要なのはこの神経(“下歯槽神経”)の麻痺です。これは、親知らずの根の先端がこの神経と接触しているために発生します。症状としては抜歯側(片側)のオトガイ部や下唇に麻痺(しびれ)が出現します。

“舌神経”が親知らず近辺を走行している患者さんでは、同様の麻痺が舌に発生する場合もあります。舌の場合には味覚障害も同時に発生します。どちらの神経麻痺も発生する確率は全体として1%以未満ですが、神経の走行は患者さんごとに異なりますので、完全に強く接している場合には50%になる場合もあります。

これらの神経麻痺は基本的には自然経過で回復しますが、回復には時間がかかるため月単位での経過観察が必要となります。長いと1~3年かかる場合もあり、また、70~80%程度の回復で留まる場合もあります(日常生活に支障がない程度までは回復します)。回復に時間がかかりますので、患者さんは皆さん焦りますが「焦らずに待つ!」ことが肝要です。
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下顎骨の中央を走行する下歯槽神経
親知らずの歯根と交叉
親知らずの歯根と交叉している
神経の知覚鈍麻の範囲
親知らずの抜歯に関わる神経や血管の走行
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【口腔と上顎洞との交通】
これは上顎の親知らずを抜歯する際のリスクです。
上顎の親知らずの根が、生まれながらにして上顎洞という空洞に突出している人の場合、抜歯後に抜歯窩(歯を抜いたあとの穴)と上顎洞が交通し(“上顎洞口腔瘻”)、上顎洞を間にして口腔と鼻腔がつながってしまいます。そうしますと、口から飲んだ水が鼻から出たり、空気が口から鼻に漏れたりします。
また、抜歯した際の血液の鼻の方に回りますが、心配いりません。比較的大きな穴でも半年から1年待つことで大部分自然に閉鎖しますが、閉鎖しない場合には塞ぐ手術(“瘻孔閉鎖術”)が必要になることもあります。

口腔と上顎洞との交通
抜歯後に瘻孔が生じると予想される
抜歯後に生じた瘻孔
(口腔から上顎洞に交通)

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【出血】
下顎骨の中央に存在する上述のトンネルの中には太い血管(動脈)のケーブルも入っています。親知らずの根の先端がこの血管と接触している場合、抜歯の最中にこの血管が傷ついて多量の出血が生じる場合があります。出血に関しては、口腔外科専門医であれば準備してある特殊な材料と手技を用いて対処可能ですので心配はいりません。

出血リスクの術前評価は、これまでの単純なX線検査のみでは不十分で、CTによる評価が必要です。“下歯槽動脈”は分岐していることがあり、分枝が歯の方向に走行している場合には術中に多量の出血が予想されます。
左図は、下歯槽動脈の分枝
術中に下歯槽動脈分枝からの多量の出血が予想される

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【その他】
親知らずの抜歯に関わるリスクや合併症(一部後遺症)はその他にもたくさんあります。患者さんにとっては怖いことばかりですが詳しく知りたい方はお読みください(実は本当に重要なのはこういうところです。しかし、全部を説明し理解していただくことは現実的ではありません。)。

術後出血・内出血・血腫(とくに高齢者や血液サラサラの薬を内服している方)、皮下気腫(切削器具の空気噴射による)、顎骨骨折(顎骨に対し歯は楔として存在)、術後感染、ドライソケット(血餅の脱落、強い痛みを伴う)、治癒遅延(持病や体調による)、瘢痕形成(手術を行った場合は必須)、口唇・口角の荒れや傷(大きく開口するため)、周囲組織の損傷(口腔は狭く奥深い危険領域、器具が届きにくい、高速回転の器具を使用、舌は不随意に動く、患者さんの体動)、周囲の歯への悪影響(動揺歯や欠けやすい歯、修復物の脱離や破折、歯肉退縮、知覚過敏、歯髄炎[→後に抜髄処置が必要])、顎骨壊死(骨吸収阻害薬を使用中の方)、気道閉塞(術後の腫脹や血腫による)、補綴物の脱落・誤嚥(嘔吐反射の強い方、治療中は患者さんも注意)、歯槽骨鋭縁の出現(術後に除去が必要)、歯の組織間隙への迷入(骨壁の吸収や欠損による、全麻下での摘出になることが多い)、切削器具の破折迷入(器具の強度不足や金属疲労)、ショック・迷走神経反射(痛みに弱い方や歯科治療恐怖症、パニック障害の方)、薬剤の副作用(種々、あらゆる臓器)、歯の一部残存(深追いすると出血や神経麻痺等のデメリットが大きくなるため残存させる場合あり、2回法に変更)、顎関節症状の出現(顎関節および咀嚼筋が脆弱な方)、顎関節脱臼(顎がはずれる、顎関節が脆弱な方)、前腕皮膚の知覚麻痺(点滴や採血を行った場合)、麻酔非奏功(麻酔が効きにくい方)、キューンの貧血帯(局所麻酔による)、局所麻酔薬中毒、過換気症候群(テタニーを含む)、血圧低下、徐脈、頻脈、嘔気嘔吐、頭痛、脳梗塞、脳出血、脳神経障害、不整脈、心不全、心停止、肺塞栓、肺梗塞、糖尿病等持病の悪化(歯性感染、手術侵襲等による)、肝障害、腎障害、不測の事態(手術の中止もありうる)等々。

術後の明らかな異常出血
口腔外への内出血
キューンの貧血帯
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X線写真で異物迷入が認められた
歯の組織間隙への迷入(骨壁の吸収や欠損による、全麻下での摘出になることが多い)
過換気症候群(テタニーを含む)
気腫
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【付記】
●“合併症”は、人間の解剖学的形態の多様性や機能異常などにより、ある一定の確率で発生するものであり、“医療過誤(ミス)とは異なります”。
●合併症に対する補償はなく、その治療は通常の保険診療として行います(治療のほとんどが保険でカバー可能です)。
●抜歯は、通常の歯科治療や薬の治療で治癒不能な歯に対して行う最後の治療です。代替治療はありません。
●リスクや合併症は歯科医学の教科書やネット等に記載されており、原因や症状、治療法、経過等のすべてを説明することは何時間もの歯科医学の講義を行うことに匹敵します。限られた診療時間内でリスク・合併症のすべてについて説明することは不可能です。一方、リスク・合併症の説明は患者さんにとっては怖い話ばかりですので、歯科医が詳細な説明をすればするほど患者さんの不安は強まり手術に対し尻込みするようになります。
●リスク・合併症については、主要項目についてのみ説明させていただき、詳細項目についてはリスクが顕在化し合併症として生じた際に詳しく説明させていただくのが妥当であり現実的と思われます。リスクや合併症については、それが実際に発生した場合、患者-歯科医師間でよく問題となるのが、患者さんの「そのリスク・合併症については聞いていなかった。こんなことが発生するなら手術は行わなかった。」という言葉です。残念ながら患者さんの理解力は様々で、一度説明したリスク・合併症を復習しますと、一部の患者さんはすっかり忘れてしまっています。また、手術を実施するか否かの決定は患者-歯科医師双方の合意に基づいて行われるもので、患者さんが拒否する手術を歯科医師が一方的に行うことは不可能です。手術は十分な“インフォームドコンセント(説明と同意)”の上で行われますので、患者さん側にも同意の責任は存在します。さらに患者さんには、手術を受ける前に“医療機関選択の自由”という大きな自由が保証されています。患者さんも自由意志で能動的に、本やネット、世間の噂、セカンドオピニオン等で情報収集し、慎重に検討してから手術実施の決定を行うことが重要です。
●リスクや合併症は手術に伴うデメリットですが、手術はそれを大きく上回るメリットがあるので行われる医療行為です。リスク・合併症について詳しい説明をすればするほど、患者さんから「では、手術はしない方がいいのでは・・・、あるいは、手術はしなくてもいいのでは・・・」という反応が返ってきます。一方、リスク・合併症が怖いため手術を拒否し、その後大変な状況に陥った患者さんは「どうしてあの先生はもっと強く手術を強く勧めてくれなかったのか」とおっしゃいます。相反する(あるいは他責的な)言動ですが、患者さんの心理としては当然なのでしょう。しかし、現代医療は患者さん主導の自己決定による自己責任の時代に変化してしまいました。

その原因は、医療の高度化に伴うリスクや合併症の増加、またそれに伴う医療訴訟の増加により、“患者-医師関係”が敵対関係に変化したことにあります。インフォームドコンセントはその中から生まれた概念です。医師は最大限死亡のリスクまで事細かく説明せざるをえなくなり、真実を説明すればするほど患者さんは怖くてどうしていいか分からず途方に暮れしまいます。どんなに詳しい説明を受けても、患者さんには医学的知識や経験が乏しく想像することしかできないからです。そのため“セカンドオピニオン”を選択する方法もありますが、患者さんはマインド的にセカンドオピニオンに流れやすいとも言われています。セカンドオピニオンでは、「できれば手術は避けたい」という患者さんの意に添って安易な治療法が提案される場合があり(患者さんにとってはその先生の方が一見良医に見えてしまいます)、その治療法を選択した結果、不幸な結末を招いたという事例もあるため注意が必要です。

●医療スタイルは時代により変遷しますが、患者-医師間の訴訟や対立から生まれた“冷戦または緊張状態”のインフォームドコンセントがけっして最良のものではなく、患者-医師関係が良好だった昔の時代の“パターナリズム”(父権主義:強い立場にある者が、弱い立場にある者の利益のためとして、本人の意志は問わずに介入・干渉・支援すること)が一部では見直されつつあります。改良型パターナリズムとして患者-医師関係が良好な中で医療が行われるのが理想と思われます。患者-医師関係は、両者が価値観や人生観を共有し、一緒に病を乗り越える“同士”としての関係であることが望まれると思われます。

実際の公開ページでは回答部分が閉じた状態で表示されます。

【親知らずについて よくあるご質問】

  • 親知らずが引き起こすトラブルにはどういうものがありますか?

    【智歯周囲炎】
    親知らずは口の中で一番奥に存在し、歯ブラシもとどかないことから、細菌が住みつき周囲の歯肉に炎症を起こします(“智歯周囲炎”)。これは“慢性細菌感染”で最初のうちは無症状ですが、年数がたち体調が悪くなった時に、うずいたり、痛んだり、歯肉が腫れたりします。このような場合には抗生剤を内服し安静にすると小康状態にはなりますが(多くの患者さんは治ったと勘違いします)、完治することはなく、体調が悪くなると再び症状が出現します。これを繰り返しながら病状は悪化します。重症になると入院して点滴治療が必要になる場合もあります。 

    【う蝕】
    上記と同様に歯ブラシがとどかないことから細菌により“う蝕(虫歯)”が発生します。細菌は親知らずの1本手前の第2大臼歯との隙間に貯まりますので、両方の歯に同時に虫歯を作ってしまいます。気がついた時には第2大臼歯までもが甚大な被害を受け、抜歯せざるをえなくなることもあります。第2大臼歯は非常に大切な歯ですから、親知らず(第3大臼歯)からの悪影響を受けないようにしておかなければなりません。

    【歯列不正】
    横向きに埋まった親知らずが前の歯を押すため、歯並びが悪くなることがあります。歯並びが悪くなりますと矯正治療が必要となりますので注意が必要です。また逆に、矯正治療が終了した患者さんでは、せっかくきれいに並んだ歯並びを崩壊させないために、矯正専門医から必ず親知らずの抜歯が求められます。矯正治療に関わる抜歯には公的保険は適応されません。

  • 親知らずは抜いた方がいいのですか?

    親知らずでも他の歯と同様に正常に萌出しているものは抜歯する必要はありません。
    ただ、それはごく一部で大部分の親知らずは一生の内で抜歯せざるをえなくなります。腫れや痛み等の症状が出現した場合には早目に抜歯をした方が患者さんの利益は大きくなります。とくに、女性の場合には妊娠中にトラブルを起こしますと、レントゲン撮影や薬の投与、抜歯ができず大変辛い思いをします。妊娠前に計画的に抜歯を行っておくのは賢明な方法といえます。
    一方、親知らずは、歯の移植に使えるとの考えもあります。成功すれば有用な方法ですが、生着しても一旦自分の体を離れた歯は非自己として認識され、10年以内に排除される傾向にあります。また、移植を要する患者さんは口腔衛生状態が不良で、移植の要件を満たさないことが多いのも事実です。移植にどの程度の期待を持つかは患者さんの考えによりますが、高齢になってまで期待を持ち続けるのはむしろ危険です(その理由は次項目に記載します)。
    現状では、基本的には親知らずは“抜いたほうがいい、あるいは抜いておくべき歯”であると考えられます。
    ただ、親知らずの抜歯は大変であることに加えてリスクが存在しますので、十分な情報を得た上で患者さん自身が決定する必要があります。
  • 親知らずはいつ抜くのがいいですか?

    通常病気は、患者さんに何らかの症状が現れ、患者さんに病気の認識が生まれてから治療が行われます。しかし、親知らずは一生の中でほとんどが抜歯せざるをえなくなりますので、トラブルを起こす前に抜歯した方が患者さんにとっては利益があります。
    近年推奨されているのは歯根が完全に形成される前の高校生位の時期に抜歯を行う方法です。歯の根がまだ張っていませんので、抜く際の難易度が大きく低下します。
    また、前述のように、女性の場合には妊娠・出産があり、この時期にトラブルを起こすことが少なくありません。この時期はX線検査も投薬も抜歯も行えませんので、安静にして痛みや腫れが引くのをただ待つしかありません。ですから、その前に計画的に抜いておくのは賢明な方法といえます。
    男女を問わず、重要なイベントやプロジェクトをかかえて懸命に仕事をしている時に限って親知らずはトラブルを起こします。それは、親知らずは存在するだけで必ず“慢性智歯周囲炎”を伴っていますので、身体を無理し免疫力が低下しますと急性転化(爆発)してくるのです。患者さんは皆、「重要な時期で仕事を休むことなどできない!」とおっしゃいますが、休まない限り良くなりません。重症となった場合には入院せざるをえなくなります。
    幸いにして老年期までトラブルを起こさずにきた場合、一生そのまま行けるかというと、80歳代、90歳代でトラブルを起こすことも比較的多く見られます。同じ歯であっても、高齢になってからの抜歯は難度が著しく上昇します。長年の慢性智歯周囲炎により“歯と骨が癒着”し、抜くのが非常に困難になっています。高齢者では骨が硬くなり弾性が失われていますのでこれも難度上昇の要因です。さらに、高齢になりますと糖尿病や心疾患などの病気を有したり、病気に伴い血液をサラサラにする薬や骨粗鬆症薬(“薬剤関連顎骨壊死”の副作用あり)を内服したりすることから抜歯のリスクは著しく高くなります。また、高齢者は予備能力が低いため、同じダメージでも、若者と同じようには回復しないどころか、逆に予測外の重篤な状態に陥る場合もあります。高齢者の親知らずは、“抜かないのは危険(生命に関わるリスクあり)、抜くのも危険(生命に関わるリスクあり)”であり、抜歯を請け負う歯科医は “虎穴に入る”覚悟で手術に臨むことになります。
    ですから親知らずは、15歳から60歳の間、できれば50歳までには抜いておくことをお勧めします。高齢になって親知らずを保有していることはリスク(危険!)でしかありません。そして、そのリスクは年齢とともに増大します。

  • 予防的(戦略的)抜歯で注意する点は?

    親知らずの場合、“完全な予防的抜歯”ということはほとんどなく、症状はなくても、大部分が“う蝕”や“智歯周囲炎”を伴っています。患者さんは自覚症状がないため病気の存在に気がついていないだけです。
     経験豊富な歯科医の勧めにより患者さんが予防的抜歯を検討する場合、患者さんには理解すべきことがあります。それは、①親知らずの抜歯は他の抜歯に比べて何倍も大変であること、②リスクが存在すること、です。そうでないと、術後に「こんなに大変だったとは思わなかった」とか「こんな合併症が生じるならやらなければよかった」ということになりかねません。
    一方、親知らずを放置し、大変な事態に陥った患者さんが言う言葉があります。「どうして今までいろんな歯科医にかかってきたのに、どの先生も親知らずを抜くように勧めてくれなかったのだろう。」という言葉です。親知らずは口腔外科専門医でなければ抜けない場合が多いので、自分の守備範囲外と考える歯科医が多いのが理由と考えられます。
    予防的手術に関して、アメリカの女優さんが乳癌を予防するために健康な乳房を切除した事例があります。遺伝的に乳癌を発症する確率が高かったからです。これにより、この女優さんは乳癌で死亡するリスクはゼロになりました。しかし、手術を受けるのは大変なことですし、リスクも存在します。予防的手術では、患者さんが手術について十分検討し、納得した上で意志決定することが重要になります。これは医科の例ではありますが、親知らずの予防的抜歯でも同様のことが当てはまります。


  • 「親知らずを抜くのは大変だ」と聞いたのですが?

    親知らずの抜歯は普通の抜歯に比べて格段に難しいのが常です。そのため術中術後における患者さんの負担はどうしても大きくなります。基本的には、歯を抜くのではなく、手術をして歯を摘出する形になります。
    体操の技は難易度によって現在AランクからIランクに分類されていますが、抜歯も同様です。
    抜歯は、一般開業歯科が行う普通抜歯でCランクのものは難抜歯となります(難抜歯には、公的保険上、費用の加算が認められます)。それに対し、骨内に埋伏した親知らずの抜歯はDランクからIランクのいずれかに該当し超難抜歯になります(日本の公的保険での費用は一律ですが、他国では難度により異なります)。
    体操のオリンピック選手は高難度の技を一見簡単そうに華麗にこなしますが、そのためには何年にも渡るハードなトレーニングが必要です。同様に高難度の親知らずを短時間で、痛みなく、安全に抜歯するためには、歯科大学を卒業後、大学病院等の口腔外科において長年に渡る修行が必要となります。 口腔外科専門医は、このような難易度の高い抜歯を患者さんに負担をしいることなく短時間で行います。一般の歯科医が2時間悪戦苦闘して抜けなかった親知らずを、口腔外科専門医は20分ほどでほとんど痛みなく抜くことが可能です。
  • 親知らずはどのようにして抜歯するのですか?

    基本的には外来手術で歯を摘出する形になります。局所麻酔後、歯肉粘膜を切開剥離し、ドリルで骨を削り、さらにドリルで歯を分割して摘出します。歯を摘出した穴には抗生剤や止血剤を填入し、縫合します。
    H~Iランクの超々難抜歯の場合には、大学病院等で入院下に全身麻酔で行うことになりますが、全身麻酔にはまたそれに伴うリスクが存在します。
  • 親知らずを抜くのは痛いですか?

    これはよく聞かれる質問ですが、全く痛みがないと言えば嘘になります。
    親知らずの抜歯は歯科治療の中で最も難しい治療で、局所麻酔で行える究極の手術です。
    麻酔が効果を生じるためには、麻酔液が歯肉から厚い“骨壁”を通過して顎骨内にまで“浸透”する必要があります。軟組織の麻酔と違い、骨壁が障害となり麻酔液が骨の中心部まで到達しにくいという特徴があります。“歯根膜内麻酔”や“伝達麻酔”も併用しますが、残念ながら100%痛みがないと断言することはできません。
    手術では、麻酔を十分に効かせることができるか否かが手術続行の可否を決めることになります。口腔外科専門医は麻酔の手技にも熟達していますので、100%とまでは言えないもののほとんど痛みなく手術が可能です。痛い場合には手を止めて麻酔を追加しますので、遠慮なく訴えてください。
    ただ、それ以上に重要なのが患者さんの“不安”です。不安が強い方は痛みも増強します。手術を行うのに不安のない方はいませんが、大部分の方は不安を抱えながらも何とか局所麻酔単独で手術は可能です。
    しかし、“極度に不安の強い患者さん”や“パニック障害を有する患者さん”では一般の患者さんと同じという訳にはいきません。術中または術後に“迷走神経反射”や“ショック”を起こし倒れてしまう場合があります。
    このような特殊な患者さん、あるいは普通の患者さんでも“楽に手術を受けたいという患者さん”には、“静脈内鎮静法”という方法があります。これは点滴をしながら半分眠った状態で手術を行うもので(完全に意識が無くなるものではありません)、“無痛治療”を原則とする欧米だけでなくアジア諸国でも現在では一般的に行われています。日本はこれらの国々に比較して普及が遅れているのが現状です。この方法を希望される方は事前に担当医にご相談ください。
  • 親知らずは何分で抜けますか?

    これは必ず聞かれる質問ですが、単純にお答えすることは困難です。それは、抜く歯の難易度や歯科医の腕によって異なるだけでなく、患者さんの痛がり度や不安、口の構造(やりやすいか否か)など種々の要素が関与するからです。おそらく患者さんは単純に「何分手術を我慢すればいいのですか」という意味で聞いているだけだと思いますので、それに対しては“一般的には30分~1時間程度”とお答えするのが妥当ではないかと思われます。もちろんそれより長くかかる場合もありますし、腕のいい先生は10分~20分で抜いてしまう場合もあります。
    (付記:御参考までに、腕のいい先生に単純に10分と答えさせるのは酷なことです。それは次のエピソードに共通するからです。すなわち、ある人間国宝の陶芸家が大皿に三すじほどの釉を15秒で流しかけ、芸術作品を作りました。それを見ていた客は「意外と簡単ですね」と言ったとのことです。それに対し陶芸家は「15秒プラス60年です」と切り返したとのことです。親知らずも短時間で抜けるようになるには何十年もの修行を要します。患者さんが担当医の腕を知ることは困難ですが、“公益社団法人日本口腔外科学会”が認定する、認定医<専門医<指導医の資格制度がありますのでHPで調べるなどして参考にしてください。)
  • 親知らずを抜く前に何か準備は必要ですか?

    とくに準備は必要ありませんが、体調を整えて来院してください。夜勤後であったり、風邪をひいていたり、血圧が高かったりした場合には中止になる場合があります。
    食事は、早めに軽めに食べてきてください(少ないと術後食べられませんのでお腹がすきます。多すぎると術中に嘔吐の危険性があります)。
    抜歯後に出血があった場合、圧迫止血用にガーゼが必要となりますので、薬局で買い求めるなどして準備をしておいてください。
    静脈内鎮静法下で抜歯を行う方は、付き添いが必要です。付き添いの方に車で送り迎えしてもらうことをお勧めいたします。
    また、親知らずの抜歯はあくまでも手術ですので、術後は安静が大切です。術後すぐに仕事に行ったり、力仕事や夜勤を行ったりすることは常識外ですので、事前に仕事のスケジュールの調整をしておいてください。
    繰り返しますが、抜歯(手術)当日、抜歯後に仕事は入れないようにしてください。翌日からは、重度の肉体労働でなければ、一般的な仕事は可能です。

  • 親知らずを抜いたあとはどのような症状がでますか?

    【腫れ】
    抜歯後12時間は腫れが急速に強まり、24~36時間でほぼピークに達します。その後は徐々に引いていき、7~10日かけて消失します。

    【痛み】
    術後1~2時間で麻酔が切れた後、痛みが出現します。痛みに対しては処方された鎮痛剤を服用してください。痛みが消失するのに通常7~10日を要します。長引くと2~3週かかります。

    【開口障害】
    術後は口を開ける筋肉の周囲に炎症が波及するため、口が少ししか開かなくなります。

    【出血】
    1~2日は唾液の中に少量血が混じって出ます。これは異常ではありません。
    術後、止血を確認して帰宅してもらいますが、帰宅後、血圧変動などにより出血した場合には再度ガーゼを噛んで圧迫止血してください。止まらない場合は、歯科医院に連絡してください。

    【内出血】
    高齢の方や血液をサラサラにする薬を服用している方では皮下に内出血を生じる場合があります。見た目は悪いですが、拡散が止まれば、心配はいりません。初期には暗紫色を呈しますが、次第に黄色に変化します。時間とともに薄くなり、2~3週で消失します。

    【しびれ・味覚障害】
    リスクの一つである神経障害が顕在化した場合には、オトガイ部や下唇、舌にしびれが出現します。舌の場合には、味覚障害も合併します。温度感覚も消失しますので焼けどに気をつけてください。

    障害される神経は知覚神経であり運動神経ではありませんので、口周囲の動きが悪くなったり口角から唾液が漏れたりすることはありません。

    神経の回復は遅いため、治癒するのに半年あるいは年単位の期間を要します。少しずつ薄皮を剥ぐように改善していきますので焦らないことが重要です。

    薬物療法は、一応存在しますが、神経の回復を補助するビタミン剤が中心で特効薬ではありません。一生懸命内服したからといってそれに応じた効果がある訳ではありません。最初の1~3か月程内服し、あとは繰り返しますが「焦らずに待つ」ことが肝要です。レーザー治療などの理学療法も同様で著明な効果のあるものではありません。

    途中、ピリピリする感じや掻痒感があることがありますが、これは神経が回復してきている証拠です。

    神経が切れることはほとんどなく、圧迫または軽い損傷程度ですので、自然回復を待つ“保存療法”が最適治療です。定期的に通院し神経の回復の程度をチェックしてもらってください。患者さんによっては、「何だ、それだけか」と思ったり、「この神経麻痺を生じさせた歯科医師には診てもらいたくない」と思ったりする方がいらっしゃいますが、それは違います。神経に接した難しい歯を抜く専門医は、神経麻痺の合併症についても精通していますので、信頼してその先生に診てもらうことが大切です。

    患者さんおよびその家族が、焦ったりその歯科医を疑ったりしてドクターショッピングをしますと、最終的に、チャレンジ的に手術を行っている医療機関に導かれることとなり、逆に症状を悪化させてしまう場合があります。

    【鼻から空気や水が漏れる】
    合併症として“上顎洞口腔瘻”が生じた場合には、抜歯窩(歯を抜いたあとにできる穴)が上顎洞と交通することで鼻から空気や水が漏れるという現象が発生します。食事の最後には水を通し通路をきれいに保ってください。大部分自然にふさがりますが、ふさがるのに要する期間は穴の大きさにより異なります。小さい場合は数日でふさがりますが、大きいと半年から1年かかる場合があります。

    【ドライソケット】図参照
    抜歯を行ったあと、通常、抜歯窩(歯を抜いたあとにできる穴)は血餅(血液がゼリー状に固まったもの)で満たされます。しかし、これが十分に形成されなかったり脱落したりしますと、歯槽骨が露出し、強い痛みが生じます。2~5%の確率で発生するといわれ、治癒するまで10日から2週間程度かかります。(痛みが遷延化しますとすぐにドライソケットと診断されてしまうことが多いですが、本当にドライソケットかどうかは口腔外科専門医の診断が必要です。)

  • 親知らずを抜いたあとは何日位で治癒しますか?

    傷口は約1週間程度で治癒しますので、その頃に抜糸を行います。しかし、それで完全に治癒したわけではなく、治癒過程はまだまだ続きます。表面の歯肉が治癒するのに1~2か月、内部の骨まで完全に治癒するのに半年以上かかります(年齢にもよります)。治癒するまでの間、抜歯窩に食片がつまることがありますが、治癒とともに肉が盛り上がり押し出されますので心配いりません。

  • 親知らずを抜いたあとの注意事項は?

    【止血】図参照
    抜歯後にガーゼを咬んでもらいますがこれは止血のためですので(“圧迫止血”)、20分以上しっかり咬んでください。“抗凝固薬(血液をサラサラにする薬)”を内服されている方は1時間以上咬んでください。その後は自分で取って捨ててください。その後も出血が続くようでしたら、再度新しいガーゼを30分から1時間しっかり咬んで様子をみてください。

    普通、抜歯の翌日くらいまでは少量の血液が唾液に混じって出ますが、これは異常ではありません。血が出るのを気にして何回も唾をはいたり口をゆすいだりしますとよけいに出血します。

    ガーゼを抜歯部に当ててしっかり咬んでいても、出血がガーゼの吸収量を上回ってすぐに脇からあふれ出てくる場合は異常出血ですので歯科医院に連絡してください。夜間の場合は救急車を呼んでください。救急車で病院に到着するまでガーゼはしっかり咬んでおいてください。

    抜歯後出血はまれに発生します。抜歯して一旦止血しても血餅(血糊)はまだ軟らかいため、血圧が上昇しただけで血管から血液が吹き出てきます。抜歯後半日は大事をとって安静にする必要があります。

    【腫れや痛み】
    親知らずの抜歯後は必ず顔が腫れます。腫れのピークは抜歯直後ではなく、48~72時間後です。手術翌日の朝に突然大きく腫れた感じになりますが、睡眠中に徐々に増大したものですから心配いりません。また、ピークに達するまで腫れはどんどん強まり、患者さんの不安は大きくなりますが、それは普通のことですので歯科医院に連絡する必要はありません。

    腫れは、治癒させるのに必要な物質を血管から漏出させ局所に集中させる反応ですから、冷やす必要はありません(昔の常識と異なります、腫れは悪者ではありません)。冷やしますと血行が悪くなり、治癒が遅れます。腫れはピークに達したあと全部で7~10日程で必ず引きます。腫れが気になるようであればマスクをかけて対処してください。

    疼痛は手術後、1~2時間程して麻酔が切れたあとに生じますが、通常処方された鎮痛剤で十分コントロール可能です。歯科医院では鎮痛剤は一定量しか出しません。患者さんから要求されても、多めに出すことはありません。それは痛みが長引いた場合、何らかの異常がある可能性があり、診察する必要があるからです。鎮痛剤がなくなってもまだ痛みが続く場合は歯科医院を受診してください。

     【食事】
    術後、患者さんからよく「食事は普通にしていいのですか?」という質問を受けますが、口の中の手術を行っているのですから、普通の食事は無理です。

    食事は手術後3~4時間以上経ってから摂取してください。術後2~3日は流動食または半固形食品あるいは軟食となります。牛乳、スープ、ヨーグルト、ゼリー、プリン、ミキサー食、豆腐、お粥、うどん、などを摂取するようにしてください。口が開かない場合には食品を細かく刻んで摂取してください。食べ物の種類に制限はありません。その後は傷の治りとともに、自分の判断で、少しずつ硬いものに上げ普通食に近づけていってください。

    【薬】
    処方された薬は指示通りに内服してください。抗生剤は、指示通りの使い方で、処方された日数分を内服してください。鎮痛剤(ロキソニンやボルタレン)は、通常、1錠内服すれば痛みはおさまりますが、おさまらない場合は2錠まで内服可能です。ただし、2錠内服した場合は、次の内服まで6時間間隔をあけるようにしてください。鎮痛剤はがまんできる程度の痛みになりましたら服用を中止してください。

    【飲酒、運動、入浴、喫煙】
    抜歯後一旦は止血しても、これらのことを行いますと、再度出血する場合があります。これは、血流量の増大や血圧の上昇、局所的圧力の上昇によるもので、これらのことは原則的には抜歯当日は避けなければなりません。例外的に入浴する場合は、脱衣時のヒートショックに注意するとともに長湯は避けるようにしてください。喫煙は治癒を遅らせる可能性がありますので、可能な日数避けてください。

    【歯磨き】
    抜歯当日は歯磨きをせず、うがいのみ(水で結構です)にしてください。うがいを強く(ブクブク)行いますと、出血の原因になりますので、口の中に含んで出す程度にしてください。翌日からは歯磨きを行って構いませんが、抜歯部には傷がありますのでそこは1週間程避けてください。

    【縫合糸の脱落】
    口の中の傷はガーゼを当てて保護することができません。そのうえ口の中は会話や食事で常に動いたり食物が接触したりしますので、縫った糸はとれやすい傾向にあります。それを承知の上で糸を何重にも強く結びますがそれでも脱落する場合があります。術後3日目以降であれば、たとえ糸が脱落しても傷口が開くことはありませんので心配はいりません。脱落した糸は捨てて構いません。歯科医院への連絡もとくに必要ありません。

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顎関節・咀嚼筋の病気


[※]顎関節の構造と特徴
特徴① 顎関節は外耳孔(耳穴)の手前にあり、口を開いたり閉じたりすると動くところです。
特徴② 下顎骨は一本の骨が屈曲し、左右両端で関節を形成しています。
特徴③ 下顎窩と下顎頭の間にはクッションに相当する“関節円板”が存在します。
図はMRI画像
特徴④ 顎運動は”てこ”と同じ原理の運動です。
”てこ”には支点、力点、作用点がありますが、顎の場合、支点は顎関節、力点は筋(複数)、作用点は歯です。
特徴⑤ 顎関節の運動は“回転運動”だけではありません。開口時には、回転運動に引き続き、前下方への“滑走運動”が生じます。下顎は咀嚼時には“開閉口運動”だけでなく、右側で咬んだり左側で咬んだり“側方運動”も行います。また、前歯で嚙み切る際には“前方運動”も行います。このように顎関節は非常に複雑な運動を行っています。
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[1]顎関節症

①症状
顎関節症の症状は以下の3つがあります。顎関節症は、顎関節そのものの障害だけでなく、顎を動かす顎筋の障害も含みます。従って、疼痛には顎関節の疼痛と顎筋の疼痛があり、両者の鑑別が必要となります。
症状(1) 関節音
症状(2) 疼痛
症状(3)開口障害
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②原因

顎運動は”てこ”と同じ原理です。

支点の顎関節、力点の顎筋(複数)、作用点の歯のいずれかに障害が生じると、”てこ”のバランスがくずれ他の2か所にも障害が生じます。

顎関節症の原因として推測されるものは多数ありますが、一般的にそれを特定することは困難です。慢性的な外力が原因の場合には発症まで長時間を要し、さらにその間に複合的となる場合もあるからです。

歯ぎしりの強い患者さんでは、“作用点の歯”が歯ぎしりによって擦り減り、咬み合わせの高さ(“咬合高径”)が低くなります。この状態で毎日食事をしますと、“力点の顎筋”には負荷がかかって痛みを発し、“支点の顎関節”も関節円板がずれたり骨の変形が起きたりすると考えられます。(下図 参照)
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③ 病態

日本顎関節学会分類 + 私案

Takahashi M. Studies on jaw dysfunction. Oral Sci Jpn 2022: 19-22.

【Ⅰ型 筋障害】

開口運動や閉口運動は、下顎に付着する複数の筋(顎筋、“開口筋”と“閉口筋”)によってなされますが、この筋に異常な負荷がかかることで、筋や筋膜の硬直(凝り)や痛みが生じます。これは,咀嚼筋の緊張,疲労,攣縮などによって引き起こされます。下顎骨はいわば宙に浮いた骨ですので、これを支える頭部や頸部、後頭部の筋や筋膜にも症状が生じることがあります。筋や筋膜が断裂する場合もあり(肉離れ)、この場合には治癒するのに月単位の時間がかかります。
(図は、筋症状発現部位)

図は、患者さんの訴え

外側翼突筋(図は、上頭と下頭)
筋障害は関係するほとんどの筋が触診のみにて診断可能ですが、一つだけ診断困難な筋があります。それは“外側翼突筋”で、その上頭は関節円板に付着しており、Ⅲ型の関節円板転位に関与しています。また、この筋は歯ぎしりにも深く関与しています。
(図の★が関節円板)

顎関節前方部の痛みは、関節原性か筋原性かの鑑別が困難ですが、“外側翼突筋麻酔”はこの鑑別を可能とします。障害の原因が本筋の場合には、本麻酔施行直後から開口痛が激減し開口量も劇的に増大します。

【Ⅱ型 関節包・靭帯障害】

顎関節は“関節包”と呼ばれる線維性の膜で被覆されており、また隣接部には骨と骨を繋ぐ“靭帯”も存在します。これらに障害が生じると比較的強い痛みが生じます。いわゆる捻挫です。捻挫は画像等での描出は不可能ですので、臨床的診察により診断します。



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【Ⅲ型 関節円板障害】

関節円板が転位した(ずれた)ことによる障害です。
関節円板は大部分が前方に転位し、“復位する場合(復位性、あくまで相対的復位)”と“復位しない場合(非復位性)”があります。

復位性では下顎頭が関節円板を乗り越える時に“クリック”と呼ばれる「カクン、カクン」という音がします。関節音がした後、口はさらに開きます。関節音には「ジャリ、ジャリ」という音、すなわち“クレピタス”もあり、こちらは症状が進行した状態と考えられています。

非復位性では、下顎頭の動きが関節円板によって制限され、いわゆる“関節ロック”の状態となります。この場合、開口障害を呈します。

病状が進行すると転位だけでなく、関節円板に変形や断裂が生じます。

このような病態やメカニズムを解明する基となったMRI像を示します。(以下、画像参照)
【Ⅳ型 骨変形障害】

異常なベクトルの力が下顎頭や下顎窩、関節結節に長年に渡り作用することで、骨の変形が生じます。変形の所見としては、骨棘、骨びらん、萎縮、平坦化、陥凹などが見られます。
(図は、横から)

下顎頭の変形(図は、正面から)


【Ⅴ型 その他】

①心因性顎関節症
脳の情動回路と運動回路には接点があり、心因により脳の運動回路を通じ運動神経に活動電位が生じ、筋の異常収縮をきたすと考えられます。心的障害でありその治療が必要となります。
(図は、活動電位の発生)

②急性顎関節症
急性外傷に起因するもので、従来外傷性顎関節炎と呼ばれていました。必ずしも炎症症状は強くなく、顎関節症の症状を呈する場合が多く認められます。

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④ 治療

【Ⅰ型】
理学療法:筋のマッサージ、温罨法(患部を温める)
経皮的電気神経刺激
薬物療法(まれ):中枢性筋弛緩薬、マイナートランキライザー
スプリント(マウスピース)療法:スタビライゼーション型スプリント
トリガーポイント注射

【Ⅱ型】
理学療法:顎運動制限による安静
薬物療法(まれ)消炎鎮痛薬の投与
スプリント(マウスピース)療法:スタビライゼーション型スプリント

【Ⅲ型】
顎運動療法:顎体操(アイーン体操)
理学療法:徒手的円板整位術(マニピュレーションテクニック)、反復ロック解除訓練、ダウンステージ療法
薬物療法(まれ):消炎鎮痛薬の投与
スプリント療法:スタビライゼーション型スプリント、下顎前方整位型スプリント
関節注射療法:パンピングマニピュレーション、関節腔内洗浄療法(まれ)、ステロイド剤あるいはヒアルロン酸製剤の関節腔内注射(まれ)
負荷開口療法:専用器具を用いた開口訓練(Ⅲb型)

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徒手的円板整位術の方法
ダウンステージ療法
再ロックに対し反復ロック解除訓練を行うことによりⅢb(3)⇒Ⅲaへ改善する(顎運動療法併用)

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開口訓練

【Ⅳ型】
変形した骨を元通りに戻すことは不可能ですので、痛みがなく、十分に開口でき、機能的に問題ない状態まで改善することを目標に治療します。
理学療法:開口訓練
薬物療法(まれ):消炎鎮痛薬の投与
スプリント療法:スタビライゼーション型スプリント
関節注射療法(まれ):関節腔内洗浄療法、ステロイド剤あるいはヒアルロン酸製剤の関節腔内注射
外科療法(まれ):関節円板切除術、関節形成術(現在ではデメリットが大きいためほとんど行われません)

 【Ⅴ型】
心因が強い場合には、簡易精神療法を行います。

【※】
上記は主に医療機関で行う治療ですが、“セルフケア”も重要となります。また、顎関節症のすべての病態(Ⅰ型~Ⅴ型)で用いられるスプリントの意義についても記載します。

◆セルフケア
Tongue up and teeth apart(舌を丸めて少し挙上し、上下の歯を離す。顎がリラックスした状態ではけっして上下の歯は咬んでいないため、これにより顎がリラックスした状態を保ちます。)
両側バランス咀嚼
下顎への外力の回避
顎筋のマッサージ
認知行動療法:悪習癖を抱えていることを認識し、それを取り除くように行動する 顎運動療法(別名:顎体操またはアイーン体操:下顎を前に出して開閉口する)
質の高い歯科治療を受ける

◆スプリント(マウスピース)療法の意義について (装着時のみ)
下顎安静位の保持(リラックスした状態では上下の歯は咬んでいない、隙間が空いている)
異常咬合からの解放
咀嚼筋の安静、緊張緩和
両側顎関節組織の異常負荷の軽減と安静
両側顎関節に加わる負荷の均等化
ブラキシズム(歯や顎に負担をかける悪習癖、歯ぎしり・食いしばり等)による為害作用の防止
異常負荷の軽減と安静による自然治癒力の向上

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[2]顎関節脱臼
一般に“顎がはずれた”といわれる状態です。口は開いたままの状態となり、閉じることができません。歯科治療で口を大きく開いて治療している間に脱臼する場合もあります。
“(顎を)入れること”すなわち“整復”が必要となりますが、困難な場合には顎関節専門医への紹介が必要となります。
治療法①
治療法②
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[3]咬筋肥大症
咬筋は食物を咬む時に作用する筋です。咬筋肥大症は、片側咀嚼や噛みしめ、歯ぎしりなどが原因となり、この筋が必要以上に発達・肥大した状態です(作業性肥大)。歯が欠けたりすり減ったりするだけでなく、頭痛、肩凝りなどの症状が生じる場合もあります。
左側咬筋の方が(発達し)肥大している
図は、MRI画像

図は、筋電図
左側の咬筋の方が大きな力を発揮している

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[4]顎関節強直症

顎関節の関節面が“線維性または骨性”に“癒着または癒合”し、関節の可動性が著しく制限または喪失した状態です。原因としては、ほとんどが関節部の感染や外傷ですが、先天性または関節リウマチの結果として生じることもあります。開口障害の程度は癒着の度合いによって異なり、骨性癒着ではほとんど開口不能で、骨性癒合では全く開口不能です。
治療は,癒着・癒合部の切離となりますが、再癒着をきたしやすいので、中間挿入物を入れるなどの工夫が必要になります。また、年単位の開口訓練も必要です。
(図は、18年前の下顎骨骨折後に生じた骨性癒合の例)

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[5]ジストニア

ジストニアは自分の意思によらない運動(“不随意運動”)で、自分では制御することができません。ジストニアは身体の様々な部位にみられ、顎口腔領域にもみられます。顎口腔領域では、顎偏位、開口障害、閉口障害、舌前突、顎前突、咀嚼障害、振戦などの症状がみられます。
特効薬はなく、この不随意運動を消失させることは困難です。ただ(不思議なことに)、物を咬んだり下顎や歯に触れたりした時に、突如不随意運動が止まることがあり、この現象は“感覚トリック”と呼ばれています。ジストニアの原因や治療法についての研究は現在進行中であり、今後解明されていくものと思われます。
(図は、顎偏位ジストニア)

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口腔粘膜及び皮膚の病気(前癌病変を含む)


[1]アフタ(口内炎)

アフタは口腔粘膜にできる潰瘍性病変(粘膜が剥がれた病変)で、接触痛が強いのが特徴です。図では舌の左側縁部に直径5mm程の黄褐色の円形病変が認められます。軟膏を塗って治療しますが、治癒するのに1週間から10日ほどかかります。大きなものが多発性に生じると激痛を伴い食事が取れなくなりますが、その場合には栄養剤を摂取するなど栄養の管理が必要となります。長期に渡って治癒しない場合は癌を疑うこともあります([悪性腫瘍1 初期]を参照)。

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[2]ヘルペス口唇炎

ヘルペス性口唇炎は、“単純ヘルペスウイルス”の感染により、口唇に水疱を形成します。 ウイルス感染は多くの場合、気がつかないうちにすでに幼少期に起こしています。感染後、ウイルスは知覚神経に潜伏し、成人になって全身の免疫機能が低下した際に活性化します。小水疱は破れやすく、破れるとびらんを形成し痛みを伴いますが、1週間ほどで痂皮を形成し治癒します。水疱形成前(発症前)にピリピリとした軽い痛みがありますので、この段階でステロイド軟膏を塗ると症状は軽く済みます。効果は高くありませんが抗ウイルス剤の軟膏も用いられます。

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[3]帯状疱疹

幼少期に“水痘帯状疱疹ウイルス”に感染すると水痘(水ぼうそう)を発症し、その後もウイルスは体内に潜伏します。ストレスや疲れなどにより免疫機能が低下するとウイルスは再活性化し発症します(“回帰発症”)。

最初は皮膚にピリピリするような痛みを感じ、その後神経支配領域に沿って紅斑を生じ、次いで紅斑上に水疱が生じます。水疱は破れやすく、破れたあと痂皮(かさぶた)を形成します。帯状疱疹の治療は、一般的に抗ウイルス薬による薬物療法が行われますが、治癒には3週間ほど要します。治癒後に“三叉神経痛様疼痛や三叉神経麻痺”が生じ数か月から数年続くことがあります。2016年から予防として50歳以上の方に対し帯状疱疹ワクチンが使用可能となりました。

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[4]口腔カンジダ症

口腔カンジダ症は、口腔に常在する菌の中で“真菌(カビ)”が異常に増殖したもので(“日和見感染”)、身体の免疫力が低下した場合などに発生します。図では、舌や軟口蓋に白い粕状の病変を認めます。
抗真菌薬を使用すれば一般に比較的容易に消失しますが、近年、 “AIDS”に伴う口腔カンジダ症もありますので、長期間治癒しない場合や再発を繰り返す場合には専門医の診察が必要です。

図は、AIDS患者におけるカンジダ症
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[5]天疱瘡

口腔内だけでなく全身に重度の水疱を形成する難治性の疾患です。口腔内に初発することが多いのですが、主科は皮膚科になります。全身(口腔を含む)の水疱は破れやすく、破れるとびらんを形成し痛みを伴います。口腔内では痛みにより摂食障害が生じます。

口腔外科では口腔内病変の治療を行うとともに摂食や栄養の管理を行います。

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[6]地図状舌

地図状舌は、舌に地図様の模様が現れる病気です。図では、舌の右側に白い枠で縁取られ内部が淡紅色の楕円形の病変を認めます。この斑紋は日により形が変化します。原因は不明ですが、痛み等の症状はなく予後も良好です。原因不明なので治療薬はありませんが、とくに悪さをする病気ではありませんので心配する必要はありません。

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[7]溝状舌

舌背部に多数の溝を認める病気です。通常症状はありませんが、炎症を起こすと灼熱感を覚える場合があります。原因が不明なので根本的な治療法はありませんが、長期経過で予後が悪い病気ではありませんので心配する必要はありません。

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[8]黒毛舌

舌の表面には密生する糸状乳頭(舌のザラザラの原因である小さな突起)が存在しますが、この乳頭の角質化が亢進して長くなり黒褐色になったものです。原因の多くは、抗生剤やステロイド剤の長期服用による口腔内細菌叢の変化(“菌交代現象”)です。したがって、これらの薬剤の使用を中止すれば治癒します。

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[9]苔舌

舌背部の苔状の付着物を舌苔とよんでいますが、これは何らかの原因によって伸びた糸状乳頭(舌のザラザラの原因)の間に細菌や剥離した上皮、食物残渣などが停滞したものです。上部消化管の病気や、口呼吸、菌交代現象、舌運動の低下、唾液分泌の低下などが原因として考えられますが、特定することは困難です。多くは病的なものではありませんので心配する必要はありません。舌苔が厚く口臭が気になる場合には、軟らかい歯ブラシや舌ブラシで清掃を行うと効果があります。

片側性(左側)に発生した舌苔

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[10]白板症(前癌病変)

白板症(1)
図で舌の右側に肥厚した白色の病変を認めます。これは白板症と呼ばれる粘膜病変で、症状はほとんどありませんが、10年間でその7~8%が癌化します。白板症で最も重要なことは、“癌化を見逃さない”ことです。白板症が発見されたならば、口腔外科専門医の下で病理組織検査を行うなどして定期的に経過観察を行うことが重要です。専門医はであれば、癌化を見逃すことはなく、たとえ癌化しても超早期発見となりますので生命に影響を及ぼすことはありません。

白板症(2)

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[11]紅板症(前癌病変)

白板症と同様に舌、歯肉、頬粘膜などに生じます。 粘膜が鮮紅色のビロード状になります。白板症に比べ発生頻度は低いものの、悪性化率は高く約50%とされています。治療は切除が基本となりますが、すでに一部が癌化している場合もあるため専門医による慎重な対処が必要です。

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[12]扁平苔癬(前癌病変)

図では右頬粘膜に白い線状の病変が認められます。これは扁平苔癬とよばれる粘膜病変です。赤みを帯びるとしみる場合がありますが、通常はほとんど症状がありません。免疫反応が関係しているといわれるものの原因はいまだ不明で、完治しがたい病変です。対症療法として副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)が使われます。ごくまれにこの病変から癌が発生することがあり(前記の白板症より低い確率)、前癌病変のひとつとして取り扱われています。

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口腔内のできもの(嚢胞・腫瘍[悪性・良性])


[嚢胞1 粘膜嚢胞]

粘膜嚢胞①
これは唇を誤って噛んだりすることで、唇の粘膜の下に存在する小唾液腺が傷ついてできる病変です。この病変はちょうど水風船のような形をしており、薄い粘膜でできた球形の嚢胞壁(水風船ではゴム膜に相当)の中に粘液が貯留しています。嚢胞壁は非常に薄いため破れやすく、破れた後は粘液が流出して平坦になります。そのため一見治癒したように思われがちですが、またすぐに膨らんで再発します。それは嚢胞壁がなお存在するため、壁で産生される粘液がまた嚢胞内に貯留してくるからです。根本的には手術をして嚢胞壁を摘出することが必要です。

粘液嚢胞②(術中写真)  
成書ではこの病気は再発しやすいと記されていますが、それは嚢胞壁の完全摘出が困難なためで、図のように嚢胞壁を傷つけずにきれいに摘出すれば再発しません。          

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[嚢胞2 ガマ腫]

口底に生じた粘液貯留嚢胞(水風船のような病変)で、ガマガエル(ヒキガエル)の喉にある袋のように見えることから命名されました。病変の嚢胞壁とそれを覆う口腔底粘膜は両者とも薄く、病変は容易に破綻します。内部の粘液が流出して平坦になると治ったように思いますが、またすぐに再発します。
上記の粘液嚢胞と同じ理由により、根本的には手術が必要です。この病変も再発しやすいので、再発する場合には、原因となっている舌下腺を摘出することが必要となります。

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[嚢胞3 類皮嚢胞]

胎生期に外胚葉組織が迷入し発生する嚢胞で、20歳以降に多く発生します。嚢胞壁に皮膚付属器(脂腺、汗腺、毛包など)を有します。大きくなるとオトガイ部(口腔外)も腫脹し、二重顎を呈します。
図は、病変により舌が挙上されている。

MRI画像
矢状断(左から)

摘出物

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[嚢胞4 顎骨嚢胞]
顎骨内にも種々の嚢胞が発生します。歯根嚢胞、含歯性嚢胞、歯原性角化嚢胞、石灰化歯原性嚢胞などは歯や歯胚上皮が原因で発生します。また、鼻口蓋管嚢胞、術後性上顎嚢胞などは、歯とは関係なく発生します。嚢胞存在部位は本来あるべき骨が吸収され消失していますので、嚢胞が大きくなった場合、顎骨に強い外力が加わるとそこで骨折する可能性があります。嚢胞は基本的には手術によって摘出する必要があります。年齢や嚢胞の大きさにもよりますが、摘出を行えば、年単位で骨が形成され、元通りになります。問題となるのは含歯性嚢胞のように嚢胞の中に必要な歯が含まれている場合です。嚢胞を摘出すると歯も同時に摘出されてしまいます。そこで、歯を犠牲にしないために、時間はかかりますが、“開窓療法” を行う場合があります。これは嚢胞に穴を開けて減圧し、嚢胞を縮小させるとともに歯を正常な位置に誘導する方法です。歯が誘導されてから嚢胞の全摘出を図ります。こうすることで病変の中に含まれた歯の喪失を回避することができます。

顎骨嚢胞(含歯性嚢胞)

開窓療法により歯を正常位に誘導

嚢胞の中には、歯原性角化嚢胞や石灰化歯原性嚢胞のように腫瘍性の性質を有するものもあります。悪性ではありませんが、顎骨内で侵襲的に急速に増大します。無痛性のため限度を超えて放置すると、顎骨を切り離さなければならなくなってしまいますので(顎骨離断)、早期受診が必要です。

歯原性角化嚢胞
腫瘍の増大により右側下顎大臼歯2本と小臼歯1本が舌側に倒れている

 歯原性角化嚢胞(CT画像)
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[良性腫瘍1 エプーリス]

炎症によって反応性に増殖した歯周組織の限局性の腫瘤です。一般的に自発性増殖する腫瘍とは区別されますが、増殖性のある場合もあります。原因は不適合補綴物や義歯のクラスプなどによる慢性刺激、歯周疾患による慢性炎症性刺激などです。女性ホルモンの変調がその発生に影響する場合もあります。外科的に切除すれば治癒します。

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[良性腫瘍2 線維腫]

線維腫(1)
舌に発生した良性の腫瘍(できもの)です。手術が必要で、切除を行えば1週間程度で治癒します。腫瘍は、病理検査で線維組織が増殖した線維腫と診断されました。同部の粘膜が歯や補綴物の鋭縁でこすれて(物理的慢性刺激によって)発生したものです。

線維腫(2)
頬粘膜の病変

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[良性腫瘍3 血管腫]

血管腫(1)
舌の端に小さな暗紫色の病変を認めます。これは、血管腫と言われる毛細血管が増生してできた良性腫瘍です。
ゆっくりとした発育を示しますが、ある程度大きくなった場合には切除が必要となります。レーザーによる焼灼術も有効です。

血管腫(2)
図のように大きな腫瘍が多発性に生じると治療は困難になります。

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[良性腫瘍4 脂肪腫]

脂肪腫は皮膚や粘膜の下にできる、脂肪細胞からなる軟らかな腫瘤です。通常痛みは伴いません。自然に消失することはなく、手術で摘出が必要となります。

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[良性腫瘍5 エナメル上皮腫(歯原性腫瘍)] 

脂顎骨内に発生する“歯原性腫瘍(歯を形成する組織に由来する腫瘍)”です。20~30歳代の下顎に多く発生します。緩慢な発育を示し、顎骨の無痛性膨隆が認められます。良性ですが、手術をしても再発しやすいのが特徴で、治療は比較的困難です。稀に悪性化する場合もあります。
図は、左下顎の膨隆

左下顎大臼歯部~下顎枝に至る巨大な透過像

進展例
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[悪性腫瘍※]
悪性腫瘍は、細胞が自律制御を失い無秩序に増殖してできる細胞集団です。その代表的なものは癌ですが、この腫瘍(できもの)は周囲組織に浸潤したり、遠隔臓器に転移したりします。癌は大血管に浸潤しますと血管壁を破綻させ大出血を引き起こし、人を死に至らしめます。また、主要臓器に転移した場合には、臓器の機能が失われ死因となります。癌は未だに治療困難な病気ですので、“早期発見・早期治療”が重要になります。
癌のステージを判定するのに、専門的にはTNM分類というのを用います。すなわち、
T因子:がんの大きさ 
N因子:周辺のリンパ節への転移の有無  
M因子:他臓器への転移の有無
です。
しかし、ここでは早期発見を単純にご理解いただくために局所の癌の大きさのみを示します。
口腔は自分で容易に観察できる領域ですので、とくに中高年以降の方は、時々口腔内をチェックすることが大切です。

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[悪性腫瘍1 初期]
【舌癌初期】
図は極初期の舌癌ですが、臨床的には専門医でも診断が難しいレベルです。アフタ(口内炎)とよく似た潰瘍性病変であり、肉眼的にすぐに癌と診断するのは困難です。しかし、専門医は常に癌との鑑別が頭の中にありますので、経過や肉眼所見、触診所見などをもとに、少しでも疑わしければ画像検査や病理組織検査を実施します。この症例は、生検による病理組織検査(組織をわずかに採取し顕微鏡的に細胞を調べる検査)で癌と診断されました。この症例は癌としては超早期発見でしたので、簡単な手術で完全治癒しました。患者さん自身にも癌との認識はほとんどありませんでした。癌は早期発見・早期治療が第一です。
参考:アフタ(口内炎)
上の初期癌と似ている
【歯肉癌初期】
図は歯肉癌の例ですが、右下第二大臼歯の舌側の歯肉が腫脹しています。表面は滑らかで、一見歯槽膿漏による歯肉の腫脹のようにも思われますが、口腔外科専門医は悪性腫瘍を疑いました。生検による病理組織検査の結果はやはり癌でした。
癌は発見が遅れると取り返しのつかないことになりますが、この症例は早期に発見されましたので簡単な手術で完全治癒しました。

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[悪性腫瘍2 中期]
【歯肉癌中期(1)】
初期の癌は痛みがないので放置されがちですが、この程度の大きさになりますと多くの人は異常に気がつきます。何か月間か腫瘤(できもの)が同じ部位に存在し増大してきたとか、見た目が何となく悪い場合には躊躇することなく医療機関を受診し専門医に紹介してもらうことが大切です。歯肉癌の場合、その直下には顎骨が存在しますので、腫瘤だけでなく顎骨も一部切除する必要があります。
この程度の大きさまでの癌であれば、中等度の手術で完全治癒します。しかし、これよりも進行しますと、より大きな手術に加えて化学療法や放射線療法も必要となり、患者さんの負担と不安は急に増大します。
癌は早期発見・早期治療が命を救う第一の方法です。
【歯肉癌中期(2)】
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[悪性腫瘍3 後期]
【歯肉癌後期】
進行癌は、患者さんの治療負担が大きくなるだけでなく、生命にも影響を与えます。この症例は、舌が口腔内に収まりきらず他人からも観察可能で、会話や摂食にも障害が出ていました。このような状態になりますと治療が困難で生命にも影響が出ますので、こうなるまで放置しないことが重要です。
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炎症(腫れや排膿)・薬剤関連顎骨壊死

[1]顎骨炎
歯を悪くしたまま放置しておきますと、歯から入った細菌が上顎や下顎に波及し、顔が腫れてきます。局所の腫脹や発赤だけでなく、全身的に発熱も認められ、口が開かなくなったりもします。上顎の場合には目が開かなくなるほど腫脹する場合があります。また、さらに頭蓋内にまで進展する場合もあります。
図は、 上下顎骨炎による腫脹   
図は、下顎骨炎による腫脹と膿瘍
両者とも悪い歯が原因です。
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[2]顎下部、頚部の蜂巣炎
"蜂巣炎”とは、細菌感染が組織間隙に波及した進展性の化膿性炎症のことを言います。このような症例では、顎下部から頚部にかけて強い発赤腫脹が認められ、入院下での点滴や切開排膿処置が必要となります。
胸にまで波及した場合には、さらに重篤な状態となります。原因は長期間放置した悪い歯で、炎症が消退した後、原因歯はすみやかに抜歯されなければなりません。
図は、歯肉腫脹
図は、下顎部から顎下部の腫脹
図は、頚部の蜂巣炎



付記:このような状態になった患者さんは皆、「歯科医はどうしてこうなる前に抜歯してくれなかったのか」とおっしゃいます。
患者さんと一般歯科医の双方に、「できるだけ歯を残すのが“善”」との考えがあるからですが、限度を超えてまで残すのは善ではありません。むしろ“悪”と言えます。
適切な時期に適切な処置 [抜歯] をするのが“善”です。口腔外科専門医の診断を仰ぎ、きちんと抜歯しておけばこのようなことは起こりません。

図は、ガス産生性蜂巣炎

蜂巣炎が入院下での点滴や切開排膿処置で治まればいいのですが、治まるかどうか確証がもてない重症例もあります。
図のCT像では“嫌気性菌(文字どおり空気を嫌う菌で酸素にさらすと死滅する)”によるガス像が組織間隙に認められます。“ガス産生性蜂巣炎”は一般に重症であることが多く、緊急入院して手厚い治療が必要となります。この場合、一刻も早く全身麻酔下で大きく切開し、皮下組織を空気にさらす必要があります。

図は、ガス壊疽

ガス産生性蜂巣炎がさらに重症化しますと“ガス壊疽”となり(図の右側の頸部)、皮膚が壊死して黒く変色します。黒色部は急速に広がり、生命に関わる状態となります。たとえ治療が成功しても、頸部への皮膚移植が必要となり、瘢痕収縮により皮膚は進展しなくなりますので、生活の質は大きく低下します。歯性感染は重篤になると生命に関わる場合がありますので、限度を超えて悪くなった歯はきちんと抜歯しておかなければなりません

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[3]歯性上顎洞炎

上顎骨には“上顎洞”と呼ばれる大きな空洞が存在し、人によってはこの空洞の中に歯の根の先端が突出している場合があります。このような人の場合、歯を悪くしますと細菌が上顎洞にまで広がり“歯性上顎洞炎”を発生します。上顎洞炎は耳鼻科で言う蓄膿症と同じ部位に発生する同じ病気です。蓄膿症は鼻だけが原因で起こるのではなく、歯が原因でも起こります。最近では、歯科用CTの普及により、この歯性上顎洞炎が従来考えられていた以上に多いことが分かってきました。歯性上顎洞炎を長期間放置し悪化させますと全身麻酔下で上顎洞の手術が必要になります。そうなる前に原因歯の抜歯を行えば多くの場合歯性上顎洞炎は治癒します。   

図は、歯性上顎洞炎のCT像
根尖病巣の細菌が上顎洞内に入り込み、上顎洞粘膜の肥厚(上顎洞炎)を引き起こしている。 

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[4]外歯瘻

抜歯適応の悪い歯を長期間放置しますと、顎骨から皮膚に“瘻孔(外歯瘻)”が形成され、顎骨内で悪い歯により形成された膿が皮膚表面に排出されます。この段階で抜歯等の処置を行えばいいのですが、治療をせずに長期間放置しますと、膿を出す通路にはしっかりとしたホース状の通路が形成され、自然には消失しないものとなります。この場合には、原因の歯を抜歯するだけでなく、ホース状の瘻管も摘出する必要があります。

     
膿を外に排出するための瘻孔(トンネル)が自然に形成される (瘻管)

図は、術中写真
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[5]薬剤関連顎骨壊死

2003年アメリカで初めて報告された比較的新しい病気です。 これは骨粗しょう症や癌の骨転移に対して投与されるビスホスホネート製剤や抗RANKL抗体薬(デノスマブ)の副作用によって引き起こされます。ビスホスホネート製剤には、フォサマック、ボナロン、ボンビバ、ダイドロネル、リクラスト、ボノテオ、リカルボン、アクトネル、ベネット、ゾメタなどがあり、RANKL抗体薬には、ランマーク、プラリアがあります。症状としては、壊死した顎骨の露出が特徴で、腫脹、排膿、疼痛なども伴います。
発症のメカニズムや治療法は一般に未だ不明とされており、ガイドラインは存在しません。

筆者は自らの研究で、以下のことを明らかにしました。(下記文献参照)
・骨壊死よりも骨炎を呈する症例の方が多い(従って病名は“薬剤関連顎骨炎”と称すべきである)
・原因は、「当該薬」+「悪い歯」である
・骨壊死は骨内圧の上昇による“脂肪塞栓”や血管内石灰沈着に伴う“血栓形成”により発生する
・漫然とした保存療法は、早期治療の機会を逸するだけでなく、その間に病状を悪化させる
・治療は外科療法を主体とし、骨シンチグラム検査の集積範囲の70%の顎骨切除を行うことで長期緩解が得られる
・当該薬投与前に、徹底的に“歯の慢性細菌感染”を除去することで発症を予防することができる。ただし、その判断および治療は口腔外科専門医に委ねなければならない(一般歯科では患者さんも歯科医師もできるだけ歯を残すことが“善”と考え、限度を超えてでも歯を残そうとしますが、この場合そうすることは逆に不幸な結果を生みます。一般歯科医の判断と口腔外科専門医の判断は異なります)。
・当該薬投与期間中ならびに投与終了後、口腔外科専門医が厳重に管理することで発症を予防することができる
等を報告しました。

原疾患の治療のため患者さんに当該薬を使用しようとする医師は、投与前、患者さんを口腔外科に受診させ(一般歯科は不適です)スクリーニングを行うことが必須です。口腔外科では投与前に抜歯等の必要な処置を行うとともに、投与後も厳重な管理を行います。そうすることで薬剤関連顎骨壊死は十分予防できますので、担当医は躊躇なく原疾患に対し当該薬を投与することが可能となります。

文献:
①Takahashi M. A comparative investigation between medication-related osteomyelitis/osteonecrosis and non-medication-related osteomyelitis/osteonecrosis. Oral Sci Jpn 2017: 27-30.
②Takahashi M. Examination of bone marrow calcification and vascular foramina in chronic osteomyelitis of the mandible. Oral Sci Jpn 2019: 1-4.
③Takahashi M. Calcification of the bone marrow and gingival mucosa, and embolization of blood vessels, in chronic mandibular osteomyelitis. Oral Sci Jpn 2019: 5-8.
④Takahashi M. Clinical study of subtotal bone marrow removal surgery for chronic osteomyelitis (osteomyelitis/osteonecrosis) of the mandible. Oral Sci Jpn 2020: 23-6.
腐骨の露出(中等度)    
腐骨の露出+広範囲顎骨炎
腐骨の露出(インプラント部、高度、非自験例)
上顎の腐骨(壊死骨)
下顎の骨髄と骨膜の石灰化
骨シンチグラム(骨炎)
SPECT-CT(骨炎)
薬剤関連インプラント顎骨炎の切除物
外科的治療後の3D-CT像
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口や顎の外傷


[1]口唇の裂創

図は打撲により生じた上唇の裂創です。創が比較的大きいので縫合を行う必要があります。審美的に重要な部位ですので、とくにきれいに縫合する必要があります。口腔外科専門医は特殊な細い糸を用いて、口腔の解剖学的形態を考慮し、きれいに縫合します。       
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[2]舌の裂創
図は転倒した際に歯で咬んで受傷したものです。縫合を行えばきれいに治癒しますが、舌は長時間伸展させておくのが難しく、しかも不随意に動きますので、治療が困難な部位です。また、お子さんの場合には泣き叫び体動もありますので治療には危険が伴います。口腔外科医はそうしたところに最大限配慮して治療を行います。      
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[3]歯の破折
歯の破折は、“歯冠破折”と“歯根破折”に分類されます。歯冠破折は、歯肉から外に出ている歯の頭の部分のみの破折で、この場合には普通に治療し、歯を残すことが可能です。しかし、図のように破折が奥深く歯根まで及んだものは原則として抜歯になります。      
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[4]歯の脱臼
図は転倒により上顎前歯が脱臼しグラグラになったものです。元の正常な位置に戻し(“整復”)、固定する必要があります。約1か月間の固定で治癒しますが、受傷した際に歯の中の神経が切断され壊死していますので、歯の固定が得られた後、歯の神経を抜く処置が必要となります。
 
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[5]顎骨骨折
図では“右下顎角”のところに骨折線を認めます。骨折の治療というと一般に整形外科を思い浮かべますが、顎骨骨折は口腔外科で治療を行います。それは顎の骨には歯が付着しているからです。顎の骨が骨折して骨片がわずかでもずれますと、歯は正常に咬み合わなくなります。咬み合せというのは非常に微妙なものですから、顎骨骨折の場合にはただ単に骨を接ぐだけでは不十分で、歯と歯の咬み合わせも精密に治す必要があります。“骨は付いたけれども咬み合わない”というのでは日常生活に支障がでてしまいます。
治療にはギブス固定で治す方法と、手術で治す方法がありますが、これは受傷の程度によって決まります。どちらの方法でも期間の長短はあれ、“顎間固定”といって口を縛って開かない(動かない)ようにする方法を用います。したがって、その間は流動食しか摂れなくなります。多くの場合体重が減りますので、しっかりとした栄養管理が必要となります。また、骨折が治癒するまで約1か月を要しますが、治癒後すぐには口が開かないので口を開けるためのリハビリも必要となります。顎骨骨折の治療は入院や全身麻酔下での手術が必要となりますので、一般的には大きな病院または大学病院で行うことになります。

 
図は、下顎骨骨折による下顎の断裂と咬合不全

 
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[6]重症外傷
重症外傷は治療が困難で生命に影響を及ぼす場合もあります。たとえ治癒しても後遺症が残ることが多くあります。
図は、交通事故による 上下顎の粉砕骨折
図は、銃弾による射創(銃創)、銃弾は散乱して迷入
大きな創口、下顎骨の飛散欠損を認める

 
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唾液腺の病気


[1]唾石症

顎下腺や舌下腺で作られた唾液は“導管”を通じて口腔内に分泌されます。口底部前方にはその導管の先端が開口していますが、排出口は小さいのでほとんど見えません。
この唾液腺の中で“唾石”と呼ばれる石が形成されることがあります(胆石などと同じです)。石が大きくなって唾液腺や導管内で唾液の流出を妨げますと、食事時に痛んだり(“唾疝痛” [だせんつう])、唾液腺が腫れたりします。この場合には、手術を行って石を摘出しなければなりません。また、唾液腺に細菌感染が起こり慢性化した場合には唾液腺の摘出が必要になります。
唾石のX線写真

 
図は、摘出物写真
導管内に多数の唾石を認める
 
図は、巨大な唾石の断面
核と層状構造を認める

 
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[2]顎下腺炎
唾石の存在により唾液の流出が妨げられた場合、外部の細菌は導管内に侵入し上向性に増殖します。 細菌は導管の奥に存在する顎下腺に付着し、顎下腺の腫脹や疼痛を引き起こします。唾石の場合には石を除去することで多くは治癒しますが、慢性顎下腺炎となった場合には、顎下腺の摘出手術が必要となります。           
 
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[3]シェーグレン症候群
口腔や眼の乾燥を主症状とする自己免疫疾であり、関節や消化管、呼吸器、肝臓、腎臓、皮膚など全身にも症状を呈します。根治的治療法は確立されておらず難病指定されています。対症療法が主で、口腔乾燥に対しては人工唾液の投与などが行われます。全身症状を伴う場合には内科的治療が優先されます。まれに悪性リンパ腫を合併することもあります。
図は、口腔(舌)の乾燥
耳下腺造影のX線像
多数の小斑点状陰影を認める

シェーグレン症候群から悪性リンパ腫に移行した例

図は、Gaシンチグラム像

摘出した顎下腺はすべてリンパ組織に置換していた
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顎や口の形態異常


[1]骨隆起

骨隆起は自分の骨が異常な形に隆起したもので病気ではありません。しかし、義歯を入れるときには、義歯がこれに当たって、不適合の原因となりますので、手術をして隆起した骨を削除する必要があります。
図は、下顎舌側の骨隆起
図は、上顎口蓋部の骨隆起
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[2]上唇小帯強直症
図では、上唇小帯と呼ばれる"ヒダ"が通常より下の方まで付着して上顎前歯の間に入り込み、歯と歯の間に隙間ができています。このヒダが存在する限り、乳歯から永久歯に生え変わってもこの間隙はなくなりません。間隙がありますと審美性に影響しますので、生え変わりの時期にこのヒダを切除する必要があります。通常の歯科治療が可能なお子さんであれば、簡単な手術ですので、即日で行うことも可能です。この時期に手術をすれば後続永久歯の萌出に伴い隙間は閉じます。
この時期を逃しますと、隙間は固定されたものとなっていまいます。隙間を閉じるためには矯正治療が必要となり費用がかかります。
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[3]舌小帯強直症
舌先端の下面に存在する"ヒダ"が通常より前方まで付着している状態です。
舌の先端が上に上がらなかったり前に出なかったりして舌の運動が制限されるため、乳児期には授乳障害、その後は構音障害が生じます。
上記の上唇小帯強直症と同様に、ヒダの切除が必要です。
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[4]顎変形症
上顎骨や下顎骨が過度に成長したり逆に成長が抑制されたりした場合、顔の審美性に影響がでるだけでなく咬み合わせも悪くなります。図は下顎前突症の症例ですが、下顎が過成長し骨格性の反対咬合を呈しています。この場合、矯正治療で歯だけを動かしても正常な咬み合わせに導くことはできず、下顎骨を短縮する手術が必要となります。しかし、手術で単純に下顎を後退させただけでは歯と歯はきちんと咬み合いません。手術前と手術後に矯正治療(両者で一つ)を行う必要があります。このような症状でお悩みの方はご相談ください。
図は、術前の咬合
術前の側貌
術後の側貌
術前矯正
術後矯正
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歯科心身症


[1]舌痛症
患者さんは舌のヒリヒリ感や灼熱感を主な症状として受診されますが、専門医が診察を行っても舌には何ら器質的異常が認められません。日本では舌痛症の診断名になっていますが、実際には口蓋などにも同様の症状が存在する場合があり、欧米では“口腔灼熱症候群”という診断名が用いられています。心の悩みやストレスが身体症状として出現する“心身症”の一つと考えられています。
“癌恐怖症(癌ノイローゼ)”を伴っている場合も多く、普段は見ることのない舌を鏡で詳細に観察し、舌の奥の方に存在するブツブツ(誰にでも存在する正常なもの)を癌ではないかと思い込んで来院する患者さんが多くいます。
図は、舌の有郭乳頭(全ての人に存在する正常なもの)
[2]口臭恐怖症(自己口臭症、自臭症)
実際には口臭が存在しないにもかかわらず、自分で口臭があると思い込んでしまっている状態です。 実際には発せられていない口臭によって、自分が周囲の人から嫌がられているのではないかという妄想を生じてしまいます。 性格としては、まじめで几帳面、潔癖性の人に生じやすいといわれています。“強迫神経症(ノイローゼ)”の一つとしてとらえられています。
[3]味覚障害
“味がわからない”、“味が薄く感じられる”、“甘いものが苦く感じられる”、といった症状が出現します。原因は不明ですが、“心因性”が疑われる場合が多く認められます。心因を取り除くことで、数か月から1年ほどで改善してきます。
従来、亜鉛不足説が強く唱えられてきましたが、実際に血液検査を行っても亜鉛が欠乏している人はほとんど存在せず、従って、亜鉛剤を投与してもほとんど効果がありません。
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その他の病気


[1]歯ぎしり

歯ぎしりは、就眠中に発生する歯と歯の擦り合わせ運動で、原因は日中の強いストレスではないかと考えられています。歯ぎしりは、食事をする時の力よりもっと大きな力で"ギリギリ"と歯を擦り合わせますので、歯が擦り減るだけでなく、顎関節にも悪影響を与えたり、顔や肩の筋肉が凝ったりします。歯ぎしりは、脳からの指令で行われますので、これを根本的に治す方法はありません。歯ぎしりによる為害作用を軽減する治療が主となります。歯が擦り減ってからでは遅いので、早目に口腔外科医に相談してください。
図は、歯ぎしりによる歯の摩耗

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[2]突発性浮腫(クインケの浮腫)

まれではありますが、口底や舌、頬、唇などが突然大きく腫れる方がいます。突発的な浮腫で大部分は数時間から2~3日で自然に消失します。“血管神経性浮腫”とも言われ、血管運動神経の局所的興奮により毛細血管の透過性が亢進し組織間に液が漏れ出ることによって生じるといわれています。浮腫が大きいと気道が狭くなり呼吸困難となる場合がありますので慎重な経過観察が必要です。
図は、舌の浮腫。
口腔底と舌が上方に大きく腫脹。

図は、口唇の浮腫
上唇が大きく腫脹

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[3]血疱

“angina bullosa haemorrhagica(血疱)”は、血液異常や全身疾患とは無関係に、突然口腔粘膜に“出血性水疱”が生じる病気です。1990年代から報告が散見されるものの未だ本邦の成書への記載は見られません。

好発部位は軟口蓋や頬粘膜、舌で、赤黒色の血豆様の病態を示します。発症して1~2日以内につぶれることが多く、つぶれると“びらん”を形成し痛みを伴います。軟膏を処方する場合もありますが、基本的には経過観察のみで1~2週間で瘢痕を残さず自然治癒します。

原因は不明ですが、熱いてんぷらや餃子、コロッケを食べた後に発症したという患者さんが多く、物理的刺激や温熱刺激で発生するのではないかと推察されています。
図は、発症から3日後

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[4]テトラサイクリン系抗生剤による歯の着色

以下は新聞記事「変色歯 TC系抗生剤の使用制限を(不二崎正径氏)」からの引用です。すばらしい記事なのでそのまま引用させていただきました。
「永久歯が顎の骨の中で発育する生後直後から6、7歳頃のまでの間にマイコプラズマ肺炎などの治療のためにテトラサイクリン系抗生剤を投与されると歯の象牙質に着色が起きる。妊婦、新生児、乳幼児へのテトラサイクリン系抗生剤の投与について注意が添付書に記載されている。それにもかかわらず一部の医師が依然として子どもにテトラサイクリン系抗生剤を投与しているのは大きな問題である。」
まさにその通りであり、医学生に対する教育の徹底が必要です。
また、乳幼児期に投与される抗生剤については母親が注意を払い医師に確認する必要があります。

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[5]睡眠時無呼吸症候群

睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に空気の通り道である“上気道”が狭くなることによって、何度も呼吸が止まったり浅くなったりすることで、“低酸素状態”が発生する病気です。ほとんどの場合、大きいいびきを伴うのが特徴です。Sleep Apnea Syndromeの頭文字をとって、「SAS(サス)」とも呼ばれます。
これは成人男性の3~7%、成人女性の2~5%程度に見られます。良質な睡眠が妨げられるため、日中の眠気や居眠りにより作業効率の低下や大きな事故などにつながります。また、睡眠中に低酸素になることで、心臓、肺、循環器系などに負担がかかり、高血圧症、心臓疾患、脳血管障害などを引き起こし、突然死の原因になることもあります。

主な原因は肥満による喉の周りの脂肪ですが、顎が小さい、舌が大きい、扁桃腺が大きいといった身体的特徴や慢性鼻炎などが原因となることもあります。主科は呼吸器内科、耳鼻科等の医科で、治療として、減量療法や“経鼻的持続気道陽圧療法(CPAP)”、耳鼻科的外科療法などが行われます。
図は、治療前の気道 閉塞している

SASの治療法の一つとしてスプリント(口腔内装置)療法があり、それを行う場合は口腔外科に紹介されます。これは下顎を上顎よりも少し前方に出して固定させることで上気道を広く保ち、いびきや無呼吸の発生を防ぐ方法です。 スプリントはその“顎位”を保たせるために用います。 
図は、治療に使用するスプリント

図は、スプリント装着後の気道
閉塞が改善している

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基礎疾患(持病)を有する方の歯科・口腔外科治療 


近年、高齢化社会の到来や医学の進歩とともに心疾患・糖尿病・脳血管障害などの全身的疾患(基礎疾患あるいは持病)を有する患者さんが増加しています。このような患者さんは歯科治療においてリスクが高く、一般の歯科医院では治療を断られたり姑息的な治療しか行ってもらえなかったりする場合があります。

また、基礎疾患がなくても歯科治療中は不安や痛みがある場合があるのが普通ですので、とくに心配性の方やパニック障害がある方は治療中あるいは治療後に迷走神経反射を起こし倒れてしまうことがあります。歯科治療中は血圧の変動なども大きいため、極めてまれではありますが、患者さんが突如“生命の危機”に陥った事例なども報告されています。

このような基礎疾患を有する患者さんを安心・安全に診療するためには、歯科医も広範な医学の知識・技術の修得が必要となります。これは歯科大学を卒業しただけでは不十分で、その後長年に渡り“医科”の大学病院等で研鑽を積まなければなりません。

近年、日常の歯科医療で問題となっているのが、医科で投与される血液をサラサラにする薬や骨粗しょう症治療薬ですが、専門医による口腔の適切な治療が行われないと、合併症を生じたり病気を悪化させたりする結果となってしまいます。

基礎疾患を有する患者さんの治療は一般に口腔外科専門医が行いますが、その中にさらに専門化された有病者歯科医療専門医もいます。持病があり何か薬を内服されている患者さんはこのような専門医を受診されるとよいでしょう。

お近くの口腔外科専門医は「日本口腔外科学会」、有病者歯科医療専門医は「日本有病者歯科医療学会」のホームページで検索することができます。

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